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【世界環境ジャーニー・カナダ】カナダ新首相が掲げる、経済成長と気候変動対策を両立させる環境政策とは?

2025.04.10

1. はじめに

2025年3月9日、カナダの与党:自由党は新たな党首としてマーク・カーニー氏を選出し、カナダは、彼のリーダーシップのもとで気候変動対策と経済成長の両立を目指す新たな環境政策を打ち出しています。

カーニー氏は、カナダ銀行およびイングランド銀行の総裁を歴任し、国際金融界で高い評価を受けた経歴を持っています。特に、気候変動が経済や金融システムに与える影響を早い段階から指摘、持続可能な投資の重要性を訴えてきた人物です。

本記事では、その様な経歴を持つカーニー首相が掲げている、経済成長と両立させる環境政策についてご紹介します。

2. カーニー首相の環境政策の概要

カナダは広大な自然環境を有し、世界的なエネルギー資源国としても知られています。​しかし、近年の気候変動による影響や国際的な環境規制の強化により、持続可能な経済成長と環境保護のバランスを取ることが求められております。

​こうした状況下で、マーク・カーニー首相は気候変動対策を経済成長の推進力と位置付け、次のような新たな環境政策を打ち出しました。​​

炭素税の見直しと優遇制度の導入
家計に直接影響を及ぼす連邦政府の炭素税を一部廃止し、代わりにエネルギー効率の高い電化製品や電気自動車(EV)の購入、住宅の断熱改善など、環境に配慮した選択を行う国民に対して優遇制度を導入する計画しています。​

大規模産業排出者への炭素価格設定
​大規模な産業排出者に対する生産量ベースの炭素価格設定制度を維持し、今後10年間でその価格を引き上げる方針を示しています。​

炭素国境調整メカニズムの導入:​
EUが導入を進めている炭素国境調整メカニズム(CBAM)に類似した制度をカナダでも導入し、気候対策が不十分な国からの輸入品に対して財政的な障壁を設けることを提案しています。

エネルギーミックスの改革と再生可能エネルギーの推進:
カナダの電力供給は水力発電を中心に再生可能エネルギーの割合が高いものの、一部地域では依然として化石燃料に依存しています。政府はこれを改善し、再生可能エネルギーの割合を増加させるために施策を推進しています。

カーニー首相の環境政策は、上記の主要な柱から成り立っています。

3.カナダの炭素税についての最新動向と見立て

カーニー首相の炭素税制度は、世界でも先進的な取り組みとして評価されています。

従来の炭素税は、消費者や企業に一定の負担を強いる形で導入されてきましたが、新政権では、低所得層や中小企業への影響を緩和しつつ、排出削減効果を最大化する仕組みへの移行を進めています。

特に、連邦政府は2025年4月1日付で燃料課税の適用を停止し、消費者向けの炭素価格設定要件を撤廃しました。これにより、ガソリン価格が下落し、特に低所得層への経済的負担が軽減される見込みです。
参考:Government of Canada 「Removing the consumer carbon price, effective April 1, 2025」(https://www.canada.ca/en/department-finance/news/2025/03/removing-the-consumer-carbon-price-effective-april-1-2025.html

また、排出量取引制度(ETS)と炭素税を組み合わせたハイブリッドモデルの導入が検討されており、企業が排出削減目標を達成しやすい環境を整えることで、経済活動の停滞を防ぎながら温室効果ガスの削減を目指す方針を掲げています。

4. 電源構成比(エネルギーミックス)のさらなる改革

カナダは、豊富な水力資源を活用し、クリーンな電力供給を実現していますが、地域によっては依然として化石燃料への依存が見られます。カーニー首相の環境政策では、エネルギーミックスの改革も重要な柱の1つとして見ています。

現在、カナダの電力供給は水力発電を中心に再生可能エネルギーの割合が高いものの、一部地域では依然として化石燃料に依存、政府はこれを改善し、再生可能エネルギーの割合を増加させるために以下の施策を推進しています。

①現在の電源構成(2021年時点)

2021年時点でのカナダの電源構成は以下の通りです。

水力発電:​約60%
・原子力発電:​約14%​
・火力発電(天然ガス・石炭):​約17%
・水力以外の再生可能エネルギー(風力、太陽光など):​約7%

これらを合計すると、ゼロエミッション電源(水力・原子力・再生可能エネルギー)の割合は約76%となります。

 ②政策実現後の目標電源構成

カーニー首相の環境政策の一環として、2030年までに発電電力の90%をゼロエミッション電源とする目標が掲げられています。

この具体的な施策として、2030年までに石炭火力発電の段階的廃止や、水力発電のさらなる拡充とその他再生可能エネルギーへの投資拡大が計画されています。​これらの取り組みにより、カナダは気候変動対策と経済成長の両立を目指しています。
参考文献:iea「Executive summary Canada 2022」(https://www.iea.org/reports/canada-2022/executive-summary#:~:text=Canada%20already%20has,meet%20this%20goal.)

電源種別現在の割合政策実現後の目標割合(2030年)
ゼロエミッション電源(水力・原子力・再生可能エネルギー)約76%90%
火力発電(天然ガス・石炭)約20%未満10%以下

5. 環境政策と経済成長の両立

カーニー首相は、環境政策を経済成長の阻害要因ではなく、新たな成長機会と捉えています。​具体的には、再生可能エネルギー産業の振興やグリーンテクノロジーの開発・普及を推進し、新たな雇用の創出を目指しています。環境に優しい製品やサービスへの需要増加を促進することで、持続可能な経済成長を実現しようとしているのです。​

また、カーニー首相は、カナダ国内のみならず、国際的な気候変動対策においても積極的な役割を果たすことを表明しています。​

彼は以前、国連の気候変動対策・ファイナンス担当事務総長特使として任命され、気候変動対策のための民間資金の動員に注力してきました。​この経験を活かし、国際社会と連携しながら、カナダの環境政策を推進していく考えです。​

6. まとめ:隣国アメリカとの外交

マーク・カーニー首相が掲げる環境政策は、気候変動対策と経済成長の両立を目指すものであり、カナダ国内外から注目を集めています。これらの政策が実現されることで、持続可能な社会の構築と新たな経済成長のモデルが示されることが期待されます。

また、カナダの環境政策は、隣国アメリカとの関係にも影響を及ぼします。アメリカ政府が掲げるクリーンエネルギー政策と歩調を合わせることで、両国の経済的な連携が強化されるとも言われています。

ただ、2025年1月にアメリカ大統領に再任したトランプ氏の政策により、動向が大きく変化する可能性も否めません。現に関税を巡って両国間の関係性に亀裂が入りかけています。

また、エネルギー輸出に関する政策の違いによって更なる摩擦を生む可能性が指摘されており、今後の外交交渉の行方が注目されています。

次回の世界環境ジャーニーでは、両者の関係性を更に深く追求できるよう、隣国アメリカの環境政策について取り上げます。

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