1. はじめに
気候変動への対応として脱炭素化が世界共通の課題となる中、世界各国では様々な取り組みが進められております。
その取り組みの1つに「カーボンプライシング」と呼ばれる仕組みがあり、二酸化炭素(CO2)の排出に価格をつけ、排出削減を促す政策手法として、欧州をはじめとしたアジアの諸国においても導入が進められております。
カーボンプライシングは、「経済成長」と「脱炭素化」の両者を同時に達成できる仕組みであると言われており、本記事ではその制度の概要と国内外の動向を紹介いたします。
目次
2. カーボンプライシングの基本概要
カーボンプライシングは、CO2の排出に対して価格を設定し、経済的なインセンティブを通じて排出削減を促す制度です。
以下の3つが代表的な取り組みの種類です。
- 炭素税
CO2排出量に応じて課税する制度。日本では2012年から「地球温暖化対策税」として導入されています。
- 排出量取引制度(ETS)
各企業に排出上限(キャップ)を設定し、排出枠を取引できる仕組みです。日本では2026年の本格導入に先駆け、GXリーグに参画する約600社が「GX-ETS」として取引が始められております。
- カーボンオフセット
CO2削減量を「価値」と見なしてクレジット取引が行えるよう証書化(カーボンクレジット)。
企業努力による削減が難しかった部分や達成しきれなかった部分を他社からの売買で相殺(オフセット)できる仕組みです。
また、エネルギーにかけられる諸税や法律などによる規制もカーボンプライシングの取り組みの一部として含まれております。
3.日本のカーボンプライシング政策
日本のカーボンプライシング政策では、GXリーグを通じた排出量取引(ETS)市場や、2023年10月に始まったカーボンクレジット市場が注目されており、企業が排出量削減努力を可視化し、その結果を経済価値に結びつける新たな取り組みとなります。
また、日本では2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、化石エネルギーから
クリーンエネルギー中心に転換する「GX(グリーントランスフォーメーション)」を実現するために、
「成長志向型カーボンプライシング構想」が打ち出されました。
「成長志向型」とある通り、規制と先行投資支援を組み合わせることで、企業などがGXに積極的に
取り組む土壌をつくり、排出削減と産業競争力強化・経済成長を実現していくためのしくみが示されております。
4.企業にとっての影響と対応策
カーボンプライシングは、短期的にみると導入コストが重なるため負担が大きいと捉えられがちではありますが、長期的には利益の拡大や企業としての競争力を強化できるような企業成長のチャンスを秘めています。
具体的には以下のような「対応策と効果の例」が挙げられます。
- 再生可能エネルギーへの移行
発電コストの削減と排出量削減を両立。
- 省エネルギー技術の導入
生産効率の向上による利益拡大。
- 消費者への訴求力向上
環境に配慮した商品やサービスの提供でブランド価値を高める。
5. 世界のカーボンプライシング事例
EUは、2005年に世界で初めてETSを導入しました。
現在ではETSと炭素税と併用したカーボンプライシング政策を展開しており、ETSの対象企業は基本的に炭素税が免除されるなど、政策に工夫がされております。
アジア地域でも各国が独自の排出量取引制度を導入し、競争が始まっております。
隣国である韓国は、2015年から、直近3年間平均のCO2排出量が12.5万トン以上の事業者が対象となるETS制度が開始されており、韓国内年間CO2排出量の約7割近くをカバーしていると言われております。
また、世界でもトップクラスのCO2排出量である中国は、2021年から電力事業者を対象にETSを導入し、中国全体のCO2排出量の4割をカバーしております。
更に、電力事業者以外へも徐々に対象領域を広げて行くことが予定されております。
参考:公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)「中韓ETSの進捗状況&日本への示唆」https://www.mof.go.jp/pri/research/eoo20230519.pdf
6. まとめ
現在、日本を含め世界各国では、カーボンニュートラル社会の実現が急務となっております。
その様な中で、カーボンプライシングは「経済成長」と「脱炭素」を同時に達成するための重要な取り組みであり、これに参画することは後の企業成長に大きな影響を与えると言えるでしょう。