
2025年、ドナルド・トランプ氏が再び大統領の座に就いたことで、アメリカの環境政策とエネルギー政策は大きく方向転換がされました。
気候変動対策を国家戦略の中核に据えていたバイデン政権とは一線を画し、アメリカ経済を再度発展させるための「エネルギー規制の緩和」と「エネルギー自給率の向上」を重視する姿勢が再び強調されています。
本記事では、トランプ政権下における最新の環境政策が国際的にも見て、「どのように影響を与えるかについて」解説します。
目次
1. トランプ政権の環境政策の現状
2025年の大統領再選を果たしたドナルド・トランプ氏は、再登板と同時に、アメリカの環境政策を根底から見直す姿勢を鮮明にしました。
「エネルギーの独立」を繰り返し強調するトランプ大統領の方針のもと、再生可能エネルギーへの公的支援は縮小され、「化石燃料産業の振興」が国家戦略の柱とされています。

また、この変化は単なる政策転換にとどまらず、アメリカの国際的な立場にも大きな影響を与えかねません。以下では、トランプ政権の主要な環境政策のポイントを整理します。
・インフレ抑制法(IRA)の見直し:
再エネやEV関連への補助を「市場への不当介入」とし、予算の削減または撤廃を進めています。
・化石燃料産業の支援:
石油・天然ガスの採掘許可を迅速化し、環境規制の簡素化を通じて、国内エネルギー産業の活性化を図っています。
・環境規制の緩和:
メタン排出などに関する連邦基準の見直しが進められ、環境保護庁(EPA)の機能縮小も示唆されています。
トランプ政権の環境政策の転換ポイント(バイデン政権との対比)

2. アメリカの現状の電源構成比(エネルギーミックス)
エネルギー政策の方向性を読み解くには、「その国が何に依存して電力を生み出しているか」を把握することが欠かせません。
電源構成を見ることで、現在の政策とエネルギー需要の現実とのギャップを理解する手がかりを掴むことができます。
アメリカの2023年の電源構成は以下の通りです。(EIA発表資料より)

再生可能エネルギーの割合は着実に増加傾向にありましたが、トランプ政権の方針転換により、その拡大ペースにはブレーキがかかる可能性があります。
特に、石炭と天然ガスの比率を維持または拡大させる政策が打ち出されており、温室効果ガス排出量の増加も懸念されています。
3. エネルギー非常事態宣言とその波紋
2025年3月、トランプ政権は「エネルギー非常事態宣言(National Emergency in Energy)」を発令しました。
この宣言は、アメリカのエネルギー自立を国家安全保障の問題として位置づけ、化石燃料の生産促進と環境規制の更なる緩和を可能にするものです。

この措置により、大統領権限のもとで連邦所有地での石油・天然ガスの開発が加速し、環境影響評価のプロセス短縮や一部の州政府の規制回避が認められることとなりました。
支持派は「高騰するエネルギー価格への対処」や「地政学リスクに備えるための国内供給強化」を根拠に挙げていますが、批判派は「環境保護の後退」や「気候変動への逆行」と強く反発しています。
ただ、1期目の大統領在任中には、カリフォルニア州などから「トランプ大統領が国家非常事態を宣言した事柄」に対して法的対抗措置を取られたこともあります。そのことから、「州政府や民間セクター」の動向によっては覆る可能性もまだ捨てきれません。
出典:White House Fact Sheet – President Donald J. Trump Pushes the Reset Button on America’s Energy Regulations(https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/04/fact-sheet-president-donald-j-trump-pushes-the-reset-button-on-americas-energy-regulations/)
4. エネルギー規制の見直しと産業界への影響
2025年4月9日、トランプ大統領は「アメリカのエネルギー規制をリセットする」ことを目的とした大統領令を発表しました。
この大統領令は、国内のエネルギー生産を促進するという名目で規制撤廃を求めているものです。
出典:White House Fact Sheet – Fact Sheet: President Donald J. Trump Pushes the Reset Button on America’s Energy Regulations」(https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/04/fact-sheet-president-donald-j-trump-pushes-the-reset-button-on-americas-energy-regulations/
この規制の見直しは、エネルギー関連企業にとっては投資の活性化や事業拡大の機会を提供する一方で、環境保護団体や一部の州政府、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する投資家からは強い反発を招いています。
特に、「温室効果ガス排出抑制義務の緩和」が、国際的な気候協定との整合性を欠くとして、外交問題に発展する可能性も指摘されています。

5. 国際的影響と他国との関係性
国際社会への影響
アメリカの環境政策の後退は、国際的に締結された気候合意の信頼性に対する懸念を高めています。COPなどの国際会議では、アメリカのリーダーシップ低下により、EUやカナダなどが主導権を強化しています。
出典:CNBC – US retreat on climate targets raises concern among allies(https://www.cnbc.com/2025/04/10/us-retreat-on-climate-targets-raises-concern-among-allies.html)
また、アメリカは来年1月に「パリ協定」から正式に離脱することが発表されています。世界第2位のCO2排出国であるアメリカが離脱することは、地球規模での温暖化対策の後退を意味していることが分かるかと思います。

カナダとの緊張
隣国カナダとの関係は、気候政策をめぐる緊張が高まっています。カナダのマーク・カーニー首相は炭素税や再生可能エネルギー投資を柱に環境政策を推進しており、アメリカの緩和的姿勢と鋭く対立しています。
米加国境では、化石燃料の輸送やパイプラインの取り扱いを巡って意見の不一致が顕著であり、カナダ側が「米国の環境政策は北米全体の気候戦略に逆行する」と公然と批判する場面も見られています。
出典:Globe and Mail – Canada warns US pipeline stance risks climate progress(https://www.theglobeandmail.com/politics/article-canada-warns-us-pipeline-stance-risks-climate-progress/)
6. まとめ:「国家」 vs 「州・民間」
環境に影響を与える政策をめぐった「国家」 vs 「州・民間」による三者間での力学は、世界的に脱炭素化が進む流れの中で大きく注目される動きとなるはずです。
トランプ政権下での環境政策後退は否定できませんが、アメリカ全体としては「州政府・民間・国際社会」という複数のプレイヤーによって、環境対策が展開されています。
州政府や民間企業が自主的に目標を設定し、気候変動対策を進めている事例が増加しており、これらの動きは政権の後押しが無くなりつつある現在でも継続されています。
また、企業の多くは、ESG(環境・社会・ガバナンス)基準に基づく投資や温室効果ガス排出量削減のため、自発的に再生可能エネルギーの導入やサプライチェーン全体での脱炭素化を進める企業が増えています。
更に、国際社会からの圧力や近隣諸国との関係性の変化が、アメリカの中長期的な気候政策に再び修正をもたらす可能性もまだ残されています。
このことから、アメリカの環境政策とエネルギー政策の行方は、「州政府や民間企業、国際社会による動き」に託されたと言っても過言ではないでしょう。