1.はじめに
インドは、昨今ものすごい速さで経済成長が進み、各国から注目を浴びているのをご存知でしょうか?
インドのGDPは近々世界5位に浮上する見通しも出ており、2027年には日本を抜いて世界3位になると言われています。
しかし、その様なインドは、様々な課題を抱えており、その1つにあげられるのが「環境問題」です。
インドは現在、「大気汚染」と「水質汚染」による環境問題に直面しており、急速な経済成長と都市化に伴って更に深刻な問題へと進んでいます。
本記事では、世界各国の環境への取り組みを取り上げる「世界環境ジャーニー」の取り組みの一環として、インドが抱えている2大環境問題である「大気汚染と水質汚染について」触れていきます。
目次
2.インドの大気汚染:主な要因
今やインドの人口は中国を超え、それと比例して、大気汚染のレベルも中国を抜いて世界で最も深刻であると言われています。
PM2.5など数値により算出される大気汚染指数は最も深刻な「ステージ4(450以上)」に到達する日もあり、世界最悪の大気汚染とも言われる程にまで悪化しているのです。
2-1. 工場からの汚染物質排出
インドは、政策として、GDPに占める製造業の割合を現状の15%から25%へ引き上げようと「Made in India」の構想を立て、生産連動型インセンティブスキーム(約5年間、インドで製造された製品の売り上げが増加した額に応じて補助金を付与する仕組み)など、海外から大型投資家を誘致するような施策を打っています。
それに伴い、工場の建設ラッシュが続き、建設時に舞うホコリやチリ、また、日々増えていく工場から放出される排気ガスによって大気汚染を悪化させているのです。
2-2. ディーゼル車による排気
2030年にかけて乗用車の保有台数は約7倍に膨らみ、1億台を超える見込みとなっております。
自動車の普及率としては中国より下回っており、若干少なく感じるかもしれません。しかし、インドは、2012年の乗用車新車登録の半分がディーゼル車であったくらいの大きなディーゼル車の市場でありました。
そのため、排気ガスの問題が中国よりも深刻化していたのです。
2-3. 農業における野焼き
インドの大気汚染は、10月から翌3月までの乾季の期間において基準値を大幅超える特徴があります。
その原因の1つに「農業における野焼き」が原因となっているのです。
特にこの時期はインド洋に向かう季節が吹くため、野焼きの文化が根強い北西部から、首都のデリーへ大気が流れ込んでしまうのです。
2-4. 大祭「ディワリ」での花火や爆竹
乾季の期間に基準値を超えるのは、ヒンドゥー教の大祭「ディワリ」も関係しております。
※地域によって「ディーパバリ」「ディパバリ」と呼ばれることもありますが、本記事では「ディワリ」で統一します。
ディワリは、毎年10月下旬〜11月中旬頃に開催され、爆竹や花火がインド中の国民によって大量に打ち上げられます。
この時期は雨が降りにくいため、上昇気流が発生しづらく空気が留まりやすくなります。
また、首都のデリー付近は山々に囲まれているため、流れ込んだ大気がなかなか抜けにくい地理的要因も相まってしまうのです。
つまり、インドの大気汚染は、これらの要因が重なり世界最悪と言われてしまう程に悪化してしまったのです。
3.インドの水質汚染:主な要因
インドの水質汚染は国民の生命を脅かすほど深刻な問題になっています。
インド政府のデータによると実に6億人あまりが水不足に直面しており、毎年推定20万人(2019年時点)が、水を確保できなかったり、汚染水の摂取により死亡しているのです。
3-1.インドの上水道の70%が汚染
インドの上水道は、2018年時点で70%が汚染されていると言われております。
インドは、急激な都市化により水道インフラが未整備のところが多く、上水道・下水道が併設されている地域もあります。
その水道管の破損や老朽化による水漏れが発生していたり、損傷箇所から汚染水が上水道へ流れ出すことでバクテリアに侵されてしまうのです。
3-2.下水処理施設の処理能力が汚水発生量の30%程度
都市河川の汚染原因の70〜80%は生活排水によるものと考えられています。
下水道処理施設を持たない都市が多いため、生活排水が河川の水質を汚染しています。
インドの都市では、一日あたり2000㎥の下水が発生していると推測されていますが、そのうち、河川や地下水に流れ出るまでに下水処理がされている割合は10%程度と言われております。
また、工業排水を管理する規制や対策が遅れており、多くの工場からの廃水が河川に垂れ流しになっているのが現状です。
3-3.農村部における地下水汚染
インドの1/3の地域では、地下水に含まれるフッ化物、鉄、塩分、ヒ素が基準値を超えていると言われています。
インドは水道がない地域も多く、人口の80%が飲料水として地下水を摂取しています。
そのため、特に農村部では、汚染された水の摂取によるフッ素症の蔓延が深刻化しております。
3-4.水資源ひっ迫
インドの水に関する問題には、汚染だけでなく「水資源の枯渇」も挙げられます。
近年は、酷暑による水の干上がりや、急速な都市化によって集水地域が縮小しており、「国民1人あたりが1年間に使用できる水の量」は1947年の6042㎥から2024年には1,486㎥まで減少を続け、水不足が年々深刻化しています。これにより、「数日に1度、しかも数時間しか水道が使用できない。」この様な地域も多く見られます。
4. インド政府の取り組み
4-1. 政府による大気汚染への対策
インド政府は、2022年10月から大気汚染対策を強化しています。
デリー首都圏で大気汚染問題を管轄する大気質管理局は、「デリー首都圏における大気汚染緩和政策」を発表し、建設工事・火力発電所・交通車両・ディーゼル発電機・野焼き・爆竹に関して、項目ごとに対応方針を示しています。
また、大気汚染指数に併せて段階的に規制を行う行動計画も定め、運用されています。
参考:日本貿易振興機構「デリー首都圏の大気汚染対策が企業活動に影響(インド)」(https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2023/aa65d3e8cad476da.html)
しかし、ディワリ開催期間である2024年11月3日、大気汚染指数は「408」、PM2.5レベルは「258 µg/m³」を記録、AQIの値では1番深刻な「危険」を示しており、対策が効果を上げているかどうかは判断が難しい状況です。
参考:「New Delhi空気質指数 (AQI) :リアルタイムの大気汚染」(https://www.aqi.in/ja/dashboard/india/delhi/new-delhi)
4-2. 政府による水質改善に向けた対策
インド政府は、2019年5月に水専門の政府機関「ジャル・シャクティ省」を設立しました。
2024年度ジャル・シャクティ省における予算、約9871.4億ルピーの内、上水道を普及させる「ジャル・ジーワン事業」に対して約70%の予算を割り当てる方針が打ち出されています。
また、 水不足を解消するために運河と貯水池を整備する「ナショナルリバーインターリンク事業」 に対して、本年度では前年度割り当てられた予算の150%が計上されています。
参考:Demand for Grants 2024-25 Analysis(https://prsindia.org/files/budget/budget_parliament/2024/DFG_2024-25_Analysis_Jal_Shakti.pdf)
また、2022年には日本環境省とジャル・シャクティ省との間で「分散型生活排水管理分野における協力の覚書」に署名を行っています。
インド政府は、30%程度に留まっている下水処理率を早急に引き上げるため下水施設の拡充にも力を入れており、優れた⽔処理技術を持つ日本にも協力を仰ぎながら前進しようと奮闘しています。
参考:環境省「日本国環境省とインド共和国ジャル・シャクティ省との間の分散型生活排水管理分野における協力覚書(仮訳)」(https://www.env.go.jp/content/900518653.pdf)
4-3. COP26にてカーボンニュートラルの達成を公約
モディ首相は、2021年に開催されたCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)において、2070年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを表明しました。
それに伴い2030年までに再生可能エネルギーを含む非化石燃料による発電容量を500GWまで増幅させる目標を掲げております。
また、IEAが出している公表政策シナリオでは、2035年までには再生可能エネルギーによる発電量は720GWを越えると試算されています。
「温室効果ガス」も「大気汚染」も発生源は共通する部分があり、化石燃料燃焼に由来する割合がどちらも大きいです。
そのため、エネルギーミックスの構成を、再生可能エネルギーやクリーンエネルギーで賄うということは大気汚染問題にも寄与すると考えられます。また、気候変動が発生する原因の一つとも言われる温室効果ガスを削減することは、「水不足問題」に対しても長期的に見て良い影響を与えるのではないでしょうか。
5. まとめ:インド環境問題への包括的な対策の必要性
インドの環境問題は、急激な都市化と経済発展に伴ってさらに悪化の一途をたどっています。
インドのGDPは目覚ましいほど拡大していますが、環境問題がこれらの成長を頭打ちする可能性も大いにあり得るでしょう。
また、環境問題への包括的な対策は、経済的な発展と同時に、国民の健康と福祉を守るためにも非常に重要です。
環境問題に対して国民一人ひとりが意識を高めるために、実際の行動に移すための教育が必要不可欠になることも忘れてはなりません。
最後に、アップルツリーは今後も、国内のみならず各国で行われている環境問題への対応を紹介して参ります。