
1. はじめに
再生可能エネルギーは、私たちの持続可能な未来を支える大きな鍵です。しかし、その普及には未解決の課題が立ちはだかっています。
送電網の整備不足やコストの高さ、そして安定供給の難しさなど、これらを克服するためには、技術革新や解決のための取り組みが欠かせません。
また、再エネの限界を補完する次世代エネルギー「核融合炉」の実用化も視野に入り、エネルギー業界は今、大きな転換期を迎えています。
期待が高まるクリーンエネルギーとともに再エネの可能性を最大限に引き出す未来を築くための道筋を探ってみましょう。
目次
2. 再エネに共通する課題
送電網の整備
再生可能エネルギー拡大のボトルネックとなっているのが、送電網の整備不足です。特に風力発電では、発電地が離島や遠隔地に多いため、発電した電力を需要地に送るためのインフラ整備が課題となっています。また、水力発電でも、特に小規模水力発電は需要地との距離が課題となり、効率的な送電網の構築が不可欠です。
コストの課題
風力発電は、洋上風力を中心に設備投資やメンテナンスコストが高いという課題を抱えています。発電コスト(13.9円/kWh)は世界平均を上回り、技術革新やスケールメリットの活用が急務です。
参考:経済産業省資源エネルギー庁「これからの再エネとして期待される風力発電」(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/huryokuhatuden.html)
また、水力発電でも、老朽化した設備の更新コストが高騰しており、資金調達や政府支援が重要な要素となっています。

安定供給の課題
風力発電では、風況の変動による発電量の不安定さが課題です。これを補うため、蓄電池や他の再エネとの組み合わせが進められています。一方、水力発電は比較的安定した電力供給が可能ですが、渇水時の影響が避けられない点が課題です。基本的に再生可能エネルギーは、自然界に存在するエネルギーを用いているため、電力需要に対して同時同量での供給や調整が難しいことが課題となっています。
3. 今後の取り組み
再エネ専用線の構築
再エネ専用線は、再生可能エネルギーによる電力を優先的に送電するための特別な送電線となり、電力を都市部や工業地域などの需要地に効率的に届けることを目的としています。これにより、従来の送電網の混雑を緩和し、新たな再エネプロジェクトの立ち上げを後押しすることが可能です。
コスト負担分散の取り組み
再エネ専用線の建設コストは膨大であり、政府補助や地域間のコストシェアリングが重要な要素となります。また、GXサプライチェーン構築支援事業など、官民連携での資金調達や、送電利用料の調整を通じてコストを平準化する仕組みが模索されています。
地域密着型ネットワークやVPPの構築
地域分散型となる風力発電や中小水力発電は、発電地点と消費地点の距離が短いため、送電コストが削減されます。さらに、地域の自治体や地元企業との連携により、送電網の構築や維持管理が地域経済・地域レジリエンスの活性化にもつながります。
また、分散している小規模発電設備をネットワークで一括りに繋げるVPPは、電力の需給バランスを調整ができ、各々で発電した電力を地域全体でシェアできるようになるため、安定供給に大きく寄与すると言われております。

4. 近い将来、エネルギー業界に革新が起きる
近い将来、再エネが持つ安定供給に対する課題を払拭した、再エネに並ぶクリーンなエネルギーが世に誕生すると言われております。それは、原子力を用いた「核融合炉」です。
「原子力」や「核」と聞くと原発など、3.11でも痛感した危険性を想起してしまうかと思いますが、「核融合炉」は原発のように核分裂によりエネルギーを発生させるのではなく、核融合によりエネルギーを生成します。核融合では核分裂のような連鎖反応が起きないため、原理的に暴走が起こらない仕組みであると言われています。また、発生する放射線も少ないため、従来の原子力発電と比較すると安全性が高いとされております。
核融合と核分裂の違い

核分裂は、ウランやプルトニウムなどの重い原子核が分裂して、複数の軽い原子核に分かれる反応であり、制御しない限り連鎖的に反応が続きます。
一方で核融合は、水素などの軽い原子核を融合させ、より重い原子核であるヘリウムと中性子へ変化させます。反応自体は一度きりのため、炉内への燃料供給を止めればすぐに反応が止まります。また、危険性が少ないだけでなく核融合で用いる重水素や重3水素は、地球上に広く存在する物質であるため、資源の枯渇問題が発生しないとされております。
核融合炉の展望
同時同量の調整も容易、且つ小規模グリッド開発が可能であるため、将来期待のできる電源になるであろうと言われています。2035年を目処に実用化されると言われていましたが、現在は後ろ倒しになり2039年が実用化開始の目安となっております。
参考:経済産業省資源エネルギー庁「次世代革新炉の現状と今後について」(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/kakushinro_wg/pdf/008_01_00.pdf)
5.まとめ
導入が大きく進んでいる太陽光発電や風力発電・水力発電は、日々の天候によって発電量にかなりの差が生じるため、他の再エネとうまく連携を取り、再エネ全体で電力需要を賄っていく電源の構成が必要不可欠です。
その中で、核融合炉は、上記再エネでは難しい同時同量の調整が可能であるという大きなメリットがあります。再エネと並ぶクリーンエネルギーである核融合炉の実用化が叶うと、日本のエネルギー界に大きな革新が生まれるでしょう。
もちろん、核融合炉が実用化したからと言って再エネが必要なくなるということはありません。再エネと核融合炉、それぞれが欠点を補完し合い、分散して役割を担うことが重要であると言えます。
再エネだけでなく多様なクリーンエネルギーの技術を導入し、相乗効果で脱炭素社会を実現していくことが今後のエネルギー業界の大きなトピックとなっていくでしょう。